企業型確定拠出年金の効果 ②福利厚生の充実

導入する企業が増加傾向にある企業型確定拠出年金(企業型DC)ですが、現時点で企業型DCを利用しているのはほとんどが大企業です。

そういった企業は経営者の退職金に困ることはあまりないと考えられますが、それでも導入するのは従業員の福利厚生のためです。

少子高齢化が進み、30~40年後の労働人口は現在の半分になるといわれています。中小企業にとっては、資本力を武器にして採用活動を継続して行うことができる大企業を相手に限られた人材を巡って競争をしていかねばならず、ますます不利な状況になることが予想されます。

これから厳しくなると予想される人材獲得競争を少しでも有利に進めるために、企業の「福利厚生」として企業型DCは非常に効果的です。

採用のカギは「福利厚生」

毎年マイナビが発表している「マイナビ 2023年卒大学生就職意識調査」。

学生の就職意識や就職活動全体の動向の調査から、学生が就職において重要視するポイントが見えてきます。

※マイナビ 2023年卒大学生就職意識調査

https://career-research.mynavi.jp/wp-content/uploads/2022/04/a958ccfb3f6afa0becd24b078d7ed9e9-1.pdf

調査によると、学生が企業を選択する際に重要視するポイントは「安定している会社か」という点が、「自分のやりたい仕事(職種)ができる」を11.1ptもの大差をつけて第1位となっています。

その上で、「企業に安定性を感じるポイント」の回答で最も多かったのは「福利厚生が充実している」で53.3%という結果でした。

反対に大手企業を志向する学生は48.5%、中堅・中小企業を志向する学生は47.8%と、企業の知名度や規模はあまり重視されておらず、以上の結果から採用活動を行う上で最も重要な項目は「福利厚生」が充実していて、従業員に「安定している」と感じてもらうことができるか?という点であるといえます。

従業員の老後不安を払拭する「福利厚生」としての企業型DC

アメリカの心理学者アブラハム・マズローが、人間の欲求を5段階のピラミッド構造で表した「マズローの欲求5段階説」というものがあります。

※花城正也「得する社長、損する社長 中小企業のための確定拠出年金」より引用

ピラミッドの最下層が「①生理的欲求」、その上に「②安全の欲求」「③社会的欲求」「④承認欲求」「⑤自己実現欲求」積み重なっていきます。下の階層の欲求をクリアすることで、一つ上の階層へ進むことができるとされています。

現在、日本人の7割が老後の生活に不安を抱えているといわれています。これは「②安全の欲求」が満たされていないことを示しています。経済問題をクリアしない限りは次のステップへ進めません。

逆に言えば、お金の不安を解消することで、会社に貢献したいと思ったり、自分にしかできない仕事をしたいと考えたりする余裕ができるといえます。

企業型DCを導入すると、会社は年に一度の説明会を義務付けられているため、その場で将来の資産形成や企業型DCの税制メリットのお話などを伝えることで、従業員の経済的な不安を取り除くことに繋がります。これは、従業員にとってこの上ない福利厚生であるといえるでしょう。

また、2022年4月から高校の授業に投資やお金に関する学習時間が設けられるようになりました。これからは投資の必要性について理解した若者たちが社会に出てくる時代となり、企業型DCの存在を知る求職者も少なからず出てくるでしょう。

若者は「福利厚生」の内容を安定している企業なのか?を測る指標として見ています。

今では「社会保険に加入しているのは当たり前」という認識が社会に広まったことと同様に、企業型DCは遅くとも10年後にはトレンドになると考えられます。

その時までに社内で「企業型DCは当たり前にある制度だ」といえるような状況にしておくことが出来れば、熾烈な人材採用活動において一つ先を行ける企業となることができることでしょう。